無意味のような生き方

組込みエンジニアが怒りと無念をさえずるブログ。

客先常駐500日

客先常駐を始めて500日が経過した。1つの客先に2年近く留まるのは、一般的にはたぶん長い方だと思う。色々な事情が重なって、新卒から今までずっと同じ所で仕事をしている。あくまで主観的な判断だけど、優秀ではないが無能でもない所まで来た。少なくとも今の仕事に関しては、かなりできるようになった。これは単にずっとやって慣れただけという側面が強い。努力して人より抜きん出た部分はない。慣れと地頭でなんとかなっているだけで、考えて生きないとこの先は真っ暗だと思う。今のうちにここ2年間のしごとを振り返っておく。
客先で2年間仕事をして、僕が感じた良かったことと悪かったことを記しておく。 

良かったこと

  • スキルが上がった

これが一番大きな恩恵だ。C言語のプログラミングだけではなく、設計書の書き方、機材の使い方、試験のやり方、お客様とのコミュニケーション(会話、メールの作法)を覚えた。人材不足のせいで、何から何までやらせてもらえたのが良かった。チャートグラフで表すと、ほぼ点の状態から、最小限の枠まで引き上げてくれた。独学では絶対に身につかなかったと思うので、感謝している。ただ、これは客先常駐のメリットというより、単に運が良かっただけだ。たまたま人手不足の仕事場にいたのと、たまたま明確な役割分担がされていない現場だったのと、たまたま優秀な先輩が近くにいた環境だった。場合によってはもっとスキルが上がっただろうし、環境のなるようにしかなっていないと思うと怖い。これから先は違うのだろうけれど、少なくとも最初は環境の役割がばかでかい。

 

  • 自信がついた

「仕事は」できるようになった。だって自分が他の人よりも圧倒的にその仕事に関わっているから。同じ状況だったら誰でもできるようになると思う。自分で調査して自分で設計して自分で書いたコードをテストするのだから、他の誰より詳しくて当たり前である。ただ、当然の思考フローとして、不具合が見つかったら真っ先に疑われる。で、結局当たっていることも多い。(コーディング量に対しては少ない方だと思っているけど、比較対象がないのでわからない。)
最低限の自信が保たれない状態だと休日に影響をきたすことも学んだので、その点は良かったと思う。

 

  • 組込みが好きになった

林修先生が「何を好きになるかは環境次第だから当てにならない」的な事を言っていた。おっしゃる通りで、僕も組込みが好きになっているとは思わなかった。そもそも大学に通っている時はエンジニアになろうと一度も考えたことがなかったし、PCのセットアップがものすごく苦手だから向いてないだろうと思っていた。ただ、ニート期間のあいだ図書館で情報系の本を読んでいたのをきっかけに、大学院時代を経て徐々に接近してきた。中でも組込みを選んだのは、当時やっていた哲学に近いものを感じたからだった。当時読んでいた論文の中に、2種類の問いに関する説明があった。「Xとは何か?」という問いは一般的な問い(一般人が思う問い)であり、それに対して哲学の問いは「Xであることはいかにして可能か?」というものである。哲学の問いに対して、(形而上学的な?)説明を与えることが哲学の目的である、と書かれていた。研究者として同意するには根性が座っていなかったが、一般人になった今、好みとしてすごく同意したい。今実現していることから、トップダウン式に考えるのが好き。「printfとは何か?」「文字を表示する関数である」で先に進むよりも、「文字を表示するのはいかにして可能か」について知りたい。誰もが知っていることを深く掘り下げるのが好きなので、結果論だけど組込み系は僕の性質に合っていた。

 

悪かったこと

  • いざと言う時の決定権がない

これはメンバーという立場だからしょうがないのかもしれないが、大事な事を自分で決められないのが辛い。決定権がなく、毎度色々な人に確認を取る必要があるので疲れる。特に入ったばかりの頃は仕事もできず、存在を軽視されていたため、大量の資料が「レビュー待ち」で止まっていた。で、期限ギリギリでレビューされ、大量に指摘を受けてとんでも残業する羽目になり、心が折れる。そういう時、社員であれば気軽に「おねがいしますー」といけるのにと思う。

 

  • 仕事ができると錯覚してしまう

最近、仕事はできるようになったことの弊害をすごく感じている。アドリブでのコミュニケーションとか、軽い冗談に対しての同程度い軽い冗談を入れた応答とか、未だにダメダメな事も多いが、それ以外はそこそこ出来るようになった。だが、それによって自分ができると勘違いをするようになっている。最強伝説黒沢じゃないが、自信がついて他人への当たりが強くなっている気がする。それに、以前なら調べていたことでも必要ないと判断できるようになって、深追いしなくなった結果、最低限の調べものしかしないようになった。あと何より、単純に落ち着かない。今まで生きてきて自分が有能だったのがはじめてな気がする。だけど、今いる会社は、日本の中でたぶんそんなにレベルが高くない。そんな場所で、ただ長く仕事をしているだけで、できるようになったと勘違いしている奴に未来はないだろう。勉強会に行くようになってよかったと思う。

 

  • (やはり)目的はない

SIerの目的って何だろうか?「お客様の目的を情報サービスによって実現する」ことであるならば、こんな他力本願ことはない。しかも客先常駐企業にとってのお客様はだいたい大手SIerである。つまり、お客様の目的を情報サービスによって実現するという目的を情報サービスによって実現するのである。二次請け三次請けとなると、もっと再帰的になる。だけど結局、目的がないのが本質のような気もする。他の会社の目的により適応するのが目的というか、気に入られることが求められているように思う。

 

  • 社内との交流がなくなる

自分の会社内での交流がなくなる。まれに同期で飲み会に行くと、出してくる登場人物がほぼ分からなかったりする。僕にとっては別にいい。

 

  • クソみたいな思考になる。

自分の立場を守ろうとするあまり、情報を隠すようになる。自分だけが知っている情報を「資産」として隠し持ち、人に聞かれない限り教えようとしなくなる。これが一番の害悪だと思っている。IT業界は人手不足なんだよ。社外だろうが協力だろうが情報はどんどん公開してスキルアップさせるべきでしょう。客先の会社が世界になったらおしまいよ。

 

SE職場の真実 どんづまりから見上げた空

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