無意味のような生き方

組込みエンジニアが怒りと無念をさえずるブログ。

『住まいから寒さ・暑さを取り除く』(1)

あらすじ

建築温熱環境のバイブル。「気密化とは、密封することではなく開放化のための手段です」「あなたが望んでいるのは冷暴ですか、それとも冷忘ですか」断熱の重要性から自然エネルギー利用、第1次産業の話題まで、哲学的な思考、独自の視点で語る。

 

内容

どんな分野でも、調べていくと必ず複数の主義や思想に出会う。人や部屋を「暖める方法」についてもまた、相反する2種類の考え方がある。

 

①採暖:暖を採る。寒さの中にあって、暖かさを摂取するという考え方。

例)こたつ、いろり

②暖房:房(空間)を暖める。一定の空間全体を暖めるという考え方。

例)断熱住宅

 

比較的寒さが厳しくない地域では「採暖」の考え方がとられ、厳しい地域では「暖房」の考え方がとられがちである。理由は、寒さの厳しい地域においては、たとえ一部であっても寒さが残っている状態では、快適さは得られないからだ。(問題が小さいうちは生活の一部に取り入れて無視しようと試みるが、あまりにも大きすぎるとそれ自体のために生活を変えざるを得ない。)それに対し、寒さの厳しくない地域では、「採暖」の考え方がとられがちである。寒い空間全体をなんとかしようというのではなく、コート・こたつなどといった「パッチ的」な対応をすることで、どうにか普段通りに過ごそうとしている。

 

「寒さが厳しい地域では使えない」以外に、採暖には別のデメリットもある。人がいる部屋だけを暖めるため、水道や排水が凍結して使えなくなってしまったり、部屋の中にいても足は冷たく頭は暖かい、といった状態が発生し、体調に悪影響を及ぼす。

本書は完全に「暖房」推しである*1

暖房をする上で最も大事なのは、暖かい部分と寒い部分を分ける「断熱」の思想だ。どこからどこまでを暖かくするかという「房の範囲」を明確にすることで、それに応じた適切な暖め方を採用する必要がある。採暖の場合、玄関や廊下や寝室が寒いのは当然のこととされているが、暖房の場合は、基本的に家全体を一つの房と考えるのが一般的だ。そして、ひとたび暖房エリアを定めた後は、その範囲を徹底的に死守する。つまり、その空間の熱損失をどれだけ抑えられるか、という事に全力を尽くすべきだ。暖房の設備は必要最小限とし、持続して使用できるようにする。

 

感想

本書の「暖房」の考え方を人に応用できないだろうか。人が外に出る場合、東京では完全に採暖の考え方だ。(暖は採っていないが局所的対処であるという意味で。)コート、マフラー、ニット帽など、寒さを感じやすい箇所を部分的にガードして、放熱を避けている。
ここでもし「暖房」の思想を導入するとどうなるだろう。そのためには房の範囲を決める必要があるが、これが難しい。毛皮で全身コーティングされている動物とは違って、人体は基本的にむき出しで外に接している。もし人体を覆うとすれば、「皮膚」か「服」くらいしかない。ただし服の場合、手袋やニット帽など部分的なモノしかないため、全身を覆おうとすれば個別で揃える必要がある。ただそれでも既存の製品だと、「顔」だけは難しいかもしれない*2。ただ、これは部屋でいうところの、ストーブを家のあらゆる箇所に大量に配置するのと同じだ。
服の内と外を区別するためには、オールコーティングされているのが望ましい。

服は今の所難しそうなので、皮膚はどうだろうか。皮膚は感覚器官と近すぎるため、感覚をごまかすくらいしか思い浮かばないが、健康上よろしくなさそうだ。皮膚は露出しているので、太陽光発電して自炊することはできたりしないだろうか。

服、皮膚以外だと、以下の候補はどうだろう。


・カプセル

カプセルで覆われた個人が移動する近未来では、この問題はとうに解決済だろう。

 

・ドローン

1人1台といわず、3台くらいドローンがずっとついてきて送風してくれれば、熱のカーテンができて上手くいくかもしれない。

 

・地球
「房」を地球全体と考え、温暖化を促進する。進捗率でいえば悪くない。

 

 

*1:暖房といっても、エアコンがこの思想に合致している訳では全く無い。多くのエアコンは部屋の上の方に設置されているが、これだと暖かい空気が上に集まるため、部屋全体を暖めるのには向いていない。また、日本のエアコンには必ず送風機がついており、これは「ある対象を暖める」という採暖思想の現れであることは明らかだ。

*2:マスクとゴーグルでいけないこともない